【独行道 ①】
幼少のみぎり父の許【もと】を去ってから、
生涯を通じて敢て一流の兵法者に就かず、
儒門を叩かず、禅家の炉鞴【ろび】に入らず、
只管【ひたすら】一剣に依って、
生死巌頭【しょうしがんとう】を去来し、
遂に心法【しんぽう】の妙を極めて、
真に独立自由の荘厳なる人格を鍛え上げた
二天【にてん】宮本武蔵が死に臨んで
弟子の為に書き残した独行道【どくぎょうどう】十九箇条こそは、
凜乎【りんこ】として秋霜烈日【しゅうそうれつじつ】の如く、
寸毫【すんごう】も我々に惰気【だき】を恕【ゆる】さない。