【馬鹿殿様】
「馬鹿殿様」というのは、
実は非常な褒め言葉なんであります。
大勢の家来の中には下らない奴もおるだろうし、
悪い奴もおる。
しかも自分の上には目を光らせている
意地の悪い幕府当局がある。
その中で悠々と藩を維持していくというのは、
なまじ小利巧な殿様ではとてもできたものじゃない。
よほど馬鹿にならんと治めていくことはできない。
『論語』にも、「その知及ぶべし、その愚及ぶべからざるなり」
(「公冶長【こうやちょう】篇」)という名言がある。
馬鹿殿様というのは、
その「愚及ぶべからざるなり」という意味で、
わかったようなわからんような、
悠々として、すべてを包容して、
事なく治めていくなんて、小利巧な人間、
小才の人間ではとてもできる芸当ではない。
「馬鹿殿様」というのは、
その意味でもおもしろい、
活きた言葉であります。