【学人の悪智】
学をする人はかならず悪慧を生ず。
その故(ゆえ)如何となれば、
人を超えんと欲して才ある人を壓す。
しかも又(また)不才のものを笑う。
眼を高くして人を直下に見る。
無学の人は諍(あらそ)う所なし。
これ学力無き故、我が本然の心を存するなり。
学をする人は曲節多く、学無き人は直心なり。
学をする人は人を疑い、学無き人は人を信ず。
信はそれ万行の始終なり。
只(ただ)学をなして悪慧を求めんよりは、
寧(むし)ろ無学にして自己を存せよ。
往昔(おうせき)は学びて道を明らめ、
身を直くし、心を清くす。
今は学びて悪智を長ず。これ時なり。
(沢庵『玲瓏随筆』)