【人間喪失の時代】
ひとかどの人で論語の一冊、
観音経の一冊を書写しなかった人はいない。
生活の中に『論語』を持ち、
法華経を持ち、観音経を持ち、
あるいは中江藤樹(なかえとうじゅ)を持ち、
山鹿素行(やまがそこう)を持たざる者はなかった。
それはその人の中に、その生活の中に、
事業の中に哲学や信仰があった。
学問求道があった。
これが国を興し、人を救った。
それが今日なくなった。
こういうところに現代の浅ましい人間喪失がある。
人間喪失とは、魂の喪失、心の喪失である。
文明国の中でそれが最もはなはだしいものが
今日の日本ではないか。