安岡正篤一日一言 2019年04月01日(月曜日)

【人――不遇の若き賢人の遺言】

 情深い人でなかったら、
 真に正しい人にはなれない。
 春の始(はじめ)の風情(ふぜい)も、
 青年の徳の芽生えほどではない。
 美徳を小人(しょうじん)が
 欲得(よくとく)から実行しても、
 美徳の利益はいちじるしい。
 利欲はいくらも富を作らない。
 利欲故に柔和な人間は始末が悪い。
 繁栄はいくらも心友を作らない。
 何にでも耐える心得のある人こそ、
 何でも敢(あて)て為すことができる。
 忍耐は希望を持つ技術である。
 絶望は人の不幸と弱さをこの上もないものにする。
 曖昧(あいまい)は誤謬(ごびゅう)の住む国である。
 表現の明るさは、深い思想を美しくする。
 戦争は隷属(れいぞく)ほど負担が重くない。
 隷属は終いにはそれを好ましいことに
 思ってしまうほど人間を低いものにする。

 これはフランスのヴォーヴナルグVauvenargues
(一七一五~四七)の箴言(しんげん)である。
 高貴な精神と、ゆかしい人柄とを備え、
 若くして友達から父とさえ慕われた人であるが、
 早く病にかかり、
 不遇の中に哲学と文筆を楽しみ、
 三十二の若さで没した。
 相識のヴォルテールは、
 彼はこの上なく不運であったが、
 この上なく落ち着いた人であったと評している。
 世の不遇の友の為にこの一篇を贈る。