【古典に親しむ】
われわれは常に時と処とに限定されて、
狭い窮屈な遽(あわただ)しい生活をしておりますが、
そういう中にあって古典に心をひそめる時には、
われわれは時と処との限定を超越して、
直ちに無礙(むげ)の世界に遊ぶことが出来るのであります。
古典はこういう無限の楽しみや真の自由を
われわれに与えてくれるのでありますが、
その上古典は歴史のふるいにかけられて残ったものであります。
歴史的評価に耐えてその生命を持ち続けるということは、
これは容易ならぬことであります。
個人でもそうで「歯徳(しとく)」という言葉がありますが、
生きるということ自体一つの徳であります。
人と人との交わりにしても、余程お互いに修養し、
蘊蓄(うんちく)を持たなければなかなか長続きするものではありませぬ。