【君子は豪傑たれ】
総じて善人とか君子とか
いわれる者にこの志気が無い。
彼等は沈香【ちんこう】も焚【た】かず
屁【へ】も放【ひ】らざることを以て
至善と考えたり、
道傍【みちばた】の小石を除いたり、
坂の車の後押しをしたことを、
一大善事を為したかの如く
昂奮【こうふん】する。
遺憾ながら是の如き
善人君子【ぜんにんくんし】は
世に横行する
悪人大俗【あくにんだいぞく】の
輩【はい】から軽侮されても
致方【いたしかた】が無い。
まことは君子が
豪傑でなければならぬ。
聖人が英雄でなければならぬ。