【女色恋愛を戒める】
日本の武士道において注意すべきことがある。
年若い時分に男女七歳にして席を同じうせずとか謂(い)って、
女色恋愛というものを戒める。
これは西洋思想で育ってきた近代人が
武士道の頑迷(がんめい)を指摘する
一つの便として何時も引用するが、
これはそんな浅薄ことではない。
人間の一生、ことに少青年期に当って、
一番その人間を動かすもの、支配力をもつものは何かというと、
女色の問題恋愛の問題です。
あまり年若い時に恋愛を得るとか、
女色に耽(ふけ)るということは、
若者として天から与えられているところの
豊富な素質才能を多く犠牲にしてしまう。
これは実に痛ましい犠牲であり自殺である。
だから、出来るだけその子供に天から与えられているままの
豊富な性能を肥(ふと)らせてやる、
伸ばしてやるというには、
やはり男女七歳にして席を同じうせずという方が、
どうも正しい教育であります。正しい思想であります。
もちろん七歳云々(うんぬん)の言葉に
拘泥(こうでい)してはなりません。