安岡正篤一日一言 2017年12月17日(日曜日)

【大石内蔵助】

 国民がいつも如何して
 あんなに忠臣蔵を愛するか、
 大石内蔵助に感激するか、
 話せば限りもないが、
 兎に角大石は腹の据わった人である。

 …愈々仇討と肚を決めても、
 そのために一人でも多く強そうな
 同志を集めようなどということをせず、

 或は城を枕に討死しよう
 という説も採って見、
 或は城を明け渡して幕府に
 嘆願しようという説も採ってみて、

 そのつど反対する者を振い落し、
 出来るだけ義挙の加盟者を
 少くしようとした。

 そこには彼の深智から発する
 謀略の存したことも勿論であるが、
 それだけと見るは
 余りに人を知らぬ者である。

 彼の深い人間愛は一人でも
 犠牲を少くしたいと念じた
 …出来るならば自分一人でもと
 決心しておったであろう。

 そうして事を運ぶ上にも
 始終従容として迫らなかった。

 如何なる猜疑の眼を以て
 探究してみても
 毫も平生と異る節が無かった。
 
 時には堕落したかと
 気節の士が腹立たしくなるほど
 洒然たるものがあった。

 そうして結局誰にも知らさず
 極めて少数の同志で、

 総ての人々が期待した
 通りの大事を決行して
 溜飲の下がるような処を
 見せたというのが

 国民の誰にも愉快で
 堪えられないのである。