安岡正篤一日一言 2017年11月25日(土曜日)

【まことの芸】
 昨【きのう】珍しく鎌倉彫の
 塗盆【ぬりぼん】をもらって、
 有名なその道の名人扇ヶ谷三郎の
 春慶堂秘伝を思い出した。

 その中に曰く、
(一)よきものをつくる
   心がけこそ大事なり。

(二)まことの芸は三十五六より
   始まるものなり。
   若くして至りたる芸を見せるもの、
   やがて芸の失するところを
   ば知るべし。

(三)芸の精進なからんは、
   名利ありともいたずら事なり。

(四)芸のゆきどまりを見せずして、
   一期【ご】を終るをまことの芸とす。

(五)古人曰く、命にはおわりあり。
   芸には果てあるべからず。
        ――弘化元年長月吉日。

 流石【さすが】に立派なものである
 ――などと言うより、

 覚えず襟【えり】を正さしめられ、
 首を垂れて慎思【しんし】
 させられるものである。

 人生も亦この通りでなければなるまい。